金子みすゞ
一 月のひかりはお屋根から、 明るい街をのぞきます。 なにも知らない人たちは、 ひるまのやうに、たのしげに、 明るい街をあるきます。 月のひかりはそれを見て、 そつとためいきついてから、 誰も貰はぬ、たくさんの、 影を瓦にすててます。 それを知らな…
私はきのふ、決めたのよ、 いまに大きくなつたなら、 上手な手品師になることを。 きのふ見て來(き)た手品師は、 みるまに薔薇の花咲かせ、 ばらをお鳩に變(か)へてゐた。 【 金子みすゞ全集(JULA出版局)手品師:金子みすゞ】より これは、「手品師」…
祖父(じい)さも海へ、 父(とと)さも海へ、 兄(あに)さも梅へ、 みんなみんな海へ。 海のむかうは よいところだよ、 みんな行ったきり 帰りやしない。 おいらも早く 大人になって、 やっぱり海へ ゆくんだよ。 【金子みすゞ大全集–生誕100年記念–(朗読…
お花がちって実がうれて、 その実が落ちて葉が落ちて、 それから芽が出て花がさく。 そうして何べんまわったら、 この木はご用がすむかしら。 【金子みすゞ大全集–生誕100年記念–(朗読CD)第二巻より】 遅かれ早かれ、南無阿弥陀仏のはたらきに気付かされ…
青いお空の底ふかく、海の小石のそのように、夜がくるまで沈んでる、昼のお星は眼にみえぬ。 見えぬけれどもあるんだよ、 見えぬものでもあるんだよ。 散ってすがれたたんぽぽの、瓦のすきに、だァまって、春のくるまでかくれてる、つよいその根は眼にみえぬ…
わたしは不思議でたまらない、黒い雲からふる雨が、 銀にひかっていることが。 わたしは不思議でたまらない、青い桑の葉たべている、蚕が白くなることが。 わたしは不思議でたまらない、たれもいじらぬ夕顔が、ひとりでぱらりと開くのが。 わたしは不思議で…
お背戸(せど)でもいだ橙(だいだい)も町のみやげの花菓子も、佛さまのをあげなけりゃ、私たちにはとれないの。 だけど、やさしい佛さま、ぢきにみんなに下さるの。だから私はていねいに、両手をかさねていただくの。 家にやお庭はないけれど、お佛壇には…
花咲爺さん 灰おくれ笊にのこった 灰おくれ私は いいことするんだよ さくら もくれん 梨 すももそんなものへは撒きゃしないどうせ 春には咲くんだよ 一度もあかい花咲かぬつまらなそうな 森の木に灰のあるたけ撒くんだよ もしもみごとに咲いたならどんなにそ…
泥のなかから 蓮が咲くそれをするのは 蓮じゃない 卵のなかから 鶏がでるそれをするのは 鶏じゃない それに私は 気がついたそれも私の せいじゃない 【金子みすゞ大全集–生誕100年記念–(朗読CD)第六巻より】 すべて、阿弥陀さまのお計らいなのでした。みす…
私がさびしいときによその人は知らないの 私がさびしいときにお友だちは笑うの 私がさびしいときにお母さんはやさしいの 私がさびしいときに仏さまはさびしいの【金子みすゞ大全集–生誕100年記念–(朗読CD)第六巻より】 阿弥陀さまとみすゞさんは、一心同体…
お背戸(せど)でもいだ橙(だいだい)も、町のみやげの花菓子も、仏さまのをあげなけりや、私たちにはとれないの。 だけど、やさしい仏さま、じきにみんなに下さるの。だから私はていねいに、両手かさねていただくの。 家(うち)にやお庭はないけれど、お…