手品師(浄土真宗の教えについて)

「浄土真宗の信心について」を中心に綴ります

将棋の譬え

 おとうさんに会った人の中に山本太朗さんという人があった。この人は仏法はおろか、平素から人間の心とか思想とかに関心のない人で、その夜も「林さんのところへ偉い人が来る」ということで奥さんに引っぱられて仕方なしに顔を出したにすぎなかった。
 私が、この人は将棋が大好きな島一番の指し手であることや、店の仕事をほったらかして将棋に夢中になって奥さんに叱られている人であることを話して紹介したところ、一切勝負事をしないと聞いていたおとうさんが、「やあ、将棋ですか、将棋は素晴らしい!」といわれたのでびっくりした。
 おとうさんのいわれるのには、
 「将棋では桂馬さんでも香車さんでも歩(ふ)さんでも、敵の陣内に入ると〝成る〟といって金と同じはたらきをするんですね」
という話からだんだんと、
 「仏法さんでも、お念仏の世界に入れていただきますと、こんなお恥ずかしい者が、゛瓦礫(がりやく)も金と変じける〟と、仏さんと同じお徳がいただけるんです。将棋はそれと同じことを教えて下さっているので素晴らしい」
と、手を取り肩を叩いて親しく話をすすめていかれたので、はじめは場違いの所へ連れて来られた感じで面喰らっていた太朗さんも一度に打ちとけて話し合いの仲間に入ったのであった。
【北の大地に念仏の華ひらく おとうさんとよばれたひと 林 暁宇 響流書房より】


『ただ回心して多く念仏せしむれば、よく瓦礫をして変じて金と成さんがごとくせしむ』※顕浄土真実行文類二(教行信証・行)
【現代語訳】
(貧しいものと富めるものをわけへだてることなく、知識や才能の高下によってわけへだてることなく、博学多門のものも清らかな戒律をたもつものもわけへだてることなく、戒律を破ったものも罪深いものもわけへだてることなく、)ただ信を得て念仏すれば、瓦や小石を黄金に変えるようにしてお救いくださるのである
顕浄土真実教行証文類(上) 原文・現代語訳 本願寺出版 P142、P143より】


成金(なりきん)
なり‐きん【成(り)金】
1 急に金持ちになること。また、その人。「土地成り金」
2 将棋で、駒が敵陣に入って金将と同じ働きをするようになったもの。
デジタル大辞泉より



南無阿弥陀仏の話をしていく上で、話す相手の背景(趣味、仕事、性格等)を考慮することは非常に大事なことだと思いました。仏法を伝えることにおいても、フレキシブルな対応が求められますね。
おかげさまで 今日も 南無阿弥陀仏