手品師(浄土真宗の教えについて)

「浄土真宗の信心について」を中心に綴ります

岩が岩となって見せてくれる

大和の吉野に「トチノモト」という所に、名高い治郎衛門様と申す御同行に逢わすつもりで、大和の御同行が多勢、隠居様を籠に乗せて行かれた。
その途中で、狩野法眼の筆捨岩と申して名高い岩がある。
その岩の前に籠を下して
「隠居様、狩野法眼の筆捨岩と申して、筆を捨てた岩は此の岩で御座りまする」と申された。
その時に
「イヤサア、狩野法眼が筆を捨てたので無いワヤ。何遍書いてもこの(岩の)通りにゆかぬ故(描けぬ故)、岩に筆を捨てさせられたノヤ」と言われた。
その後で
「こちらへ廻って見なされ。妙な岩ヤ」と申された。
「イヤサア、私の見ようで(凡夫のはからいで)見えるヤない(本願力が聞えるのでない)。岩(如来)が岩(名号)となって見せて(聞きとどけさせて)くれるノヤ」と言われた。
【信者吉兵衛  稲垣 瑞劔 百華苑 P153より】(※一部、旧字を変換)